電源モジュールでモーターを回す話

 電子工作関連部品で散らかった部屋を眺めながら、一生では使い終えきれないほどの未使用部品をどうするかため息をついている。

 「電子工作」と言っても、出来合いのキットを組む(改造を含む)か、データシートに載っている参考回路、あるいはどこかのWEBサイトに掲載されている回路を少々モディファイするだけで、その大半の時間はケースの加工や線材の接続に充てている。

 そんな中で、最近のマイブーム(古語?)は、「電源モジュール」である。もはや電子工作とも言えない、ともすれば圧着端子だけで閉じそうな世界。

 シングルボードコンピューターとセンサーによるデジアナハイブリッド回路の洗礼を一通り終えて、最終的にアナログな電子工作が残る分野は「アンプ」と「ラジオ」、「モーター」そして「電源」くらいではないかと思っている。そのうち「電源」は、いわゆる定電圧安定化電源を、コイルで低圧化した交流から整流し、オーディオくらいには使えるコンデンサを組み合わせたものを二十年くらい前に作り、いまだにそれが現役で稼働している。

 モノは充電バッテリー式の古い電動ドリルドライバー(以下電ドラ)で、電池が腐ったそれをレストアしよう、と言うのが本記事を書いた動機である。1200mAの1.2vのバッテリーを8個直結した旧時代のもので、マイナーであるメーカーは既になく、バッテリーはそのケースの中で液漏れどころか、それが乾燥して粉を吹いていた。でも、機械的にみると、540クラスのモーターを積み、数段のトルクリミットをかけられる遊星ギアボックスはどこも悪くない。これを捨てるのは忍びない。この電ドラは、Battery Defined Lifecycleな、SDGsを真っ向から否定する商品だったわけである。ま、それはスマホ、タブレット、ハイブリッドカー、電気自動車も同じなのだが。

 これなら高価な安定化電源は要らない。LM2596とかXL4015などの整流用チップを用いた手のひらサイズの基板、定電圧DC-DCコンバーターと交換すれば簡単だろう、と思っていた。まあ、普通の人は「モジュール」として選択するならPWMコントローラだと思う。電源モジュールよりは若干高いが、確実で簡単である。テスト用にDCモーター用PWM、ステッパーコントローラ、ブラシレスモーターコントローラなども転がっているが、まあしかし、今回はDC-DCコンバータを使う話。

 最初は、単純に元のバッテリーが9.6vだったので、LM2596の降圧モジュールの出力トリマーを回して9.6vに設定してみたら、見事に回らなかった。この電ドラはトリガーが電圧調整用ボリュームになっており、トリガーを少しずつ引くと回転も少しずつ上がってくれるのだが、一気にトリガーを引くとスンとして何も起きない。いわゆる起動トルクに負けてしまった状態になる。元々トリガーがボリュームなのは、商品の特長ではなく、必然だったわけだ。少ーしずつ電流を流して低速回転させ、ゆっくり電圧を上げると標準的な速度まで達する。

 その「電源モジュール」にはACアダプターから給電している。バッテリー式の利点は損なわれるが、バッテリーを内蔵しないのは持続可能な何たら的には正義らしい。そのACアダプターを大電流のものに変えると改善し、何とか普段使いに問題のない程度のアダプターは見つかった。ちなみに私が使った電源モジュールは、定電圧モジュールで、出力電圧を決めるトリマー抵抗を触らなければ、異なるACアダプターを使用しても、同じ出力電圧を出そうとする。変わるのは電流だけである。

 でも、電池と挙動が違うのが気に入らない。電ドラとは別に、380クラスのモーターを積んだ模型飛行機のジャンク部品―モーターとプロペラ、古バッテリーが二個ずつ付いた双発機の動力部分のみ―を取り出して、余分な電源モジュールに繋いでみた。元々のバッテリーは単四サイズ1.2vの5本が俵積みだったので、6.0vが定格だったはずである(既に捨てている)。プロペラは危ないので、真鍮製のドリルチャックに変更。あと、入力側にオンオフのスイッチをつけた。

60x25x35くらいのプラケース。こっちはメタルのコンデンサ(耐圧・容量は同じ)。10mmの足一本で基板固定。

 モーターは小さくなったが、現象は再現。今度はトリガーボリュームなんてのは無いので、トリマー抵抗を精密ドライバーでくるくる回しながら様子を見る。それがつらくなったので、そこらにあったケースにデジタル電圧計と一緒に収めたが、結局ボリュームは外装する隙間がなく、ケースに孔を開けてそこからドライバーで調整。

実験用ひな形全景。感覚的には入出力が左右逆だった…

 モーターの両極には予め小さなセラミックコンデンサーと電解コンデンサーが並列に付いていた。マブチさんの話によれば、セラミックコンデンサーは高周波ノイズを、電解コンデンサは低周波ノイズを抑えるそうです。付いているコンデンサーが古すぎて壊れた?のが原因なのかどうかは知らないが、低い電圧で、回していると、何かの拍子にガッと言って止まる。ギアは無いのにギアが何かを嚙みこんだがごとく突然止まる。モーターは2v以下から静かに回り始める。そのあたりから低速で回転させ、トリマーでゆっくり電圧を上げていくと問題なく回転が上がる。でも3-4vの出力状態で電源スイッチをオンにすると止まる。

 普通のラジコンは、モーターが静止状態から電圧を次第に上げていく。なので、この問題は発覚しなかったのだろうか(ジャンクで入手したので元の状態を知らないが)。そこで、そこらにあった定格のわからない怪しいダイオードをモーターと並列に入れる。LEDでもガラス封入でもないので整流用かと思う。モーターのプラス電極側にカソードが来るように。果たしてこれが解決策だったようで、劇的に改善した。トリマーで電圧を上げた状態でスイッチ入れても、ちゃんと回るようになった。ただ、これをモーターに取り付けると、極性を変えてモーターの回転方向を逆にすることはできなくなる(つか、電解コンデンサも極性あるし)。ショートに近くなるので要注意。

 電源モジュールの一般的な用途は何かと考えると、よくあるのがLED装飾の電源で、cv-cc化されたものならバッテリーの充電にも使われる。しかしそれらに極性を反転する要素は無い。更にそれらがモーターへの適用と決定的に違うのは逆起電力の有無…ということは知ってはいたが、それを目の当たりにしたのはこれが初めてだった。とりあえず回ったとは言え、ダイオードは電流容量には敏感なので、逆起電力がこのダイオードの容量を超えないことを願う(けど、いっぱいあるし)。

 この、モーターと並列つなぎするダイオードは「フライバックダイオード」もしくは「フリーホイールダイオード」と呼ばれるが、個人的には(誤用みたいだが)「フライホイールダイオード」と呼ぶのも気に入っている。モーターが、電源を切った瞬間発電機に変わり、これまでのコイル内の電流を保とうとする、つまりダイオードはその電気を自分が正転する方向に流す、ってところが、回転の安定化のためにエンジンなどにつけられる「はずみ車」、つまり「フライホイール」に機能的な類似性があると思う。まあ、ダイオードを通すと約0.6vの税金を取られるので、長くは保たないのだが。

※いつも混乱するが、フライバック電圧は、モーターの負極側が正極側より高くなるように発生する。なのでダイオードは導通し、アノード側よりカソード側にモーター正極側に電流を流すことになる。

 ちなみに、電源モジュール側に逆向きの電流が流れないようにするための保護ダイオードはモジュール基板上に載っている。

 それで気をよくして、では元の電ドラにも、ダイオードをモーターと並列に…と考えたが、電ドラはプロペラと違い、逆転させることができて、それが機械的な仕掛けではなさそうである。うーん、モーターのファンの吸気口近くにいかにもレギュレータです、といった感じのチップがあったんだけど…どうやって反転させているのだろう?トリガースイッチ近くにレバーが出ていて、それで正逆反転するのだけど。使われているチップが何なのかは塗りつぶされていてわからない。ならもうトリガーからモーターまではブラックボックスのままにして、単純に電池の置き換えと捉えなおす。電源モジュール出力の正負は反転しないのだから、モーターのそばではなく、電源モジュール付近に付ければ良いか。

電池ケースの重量が減ってバランスがちょっと悪化。右の赤い奴がT分岐ターミナル
赤枠内がダイオード。熱縮チューブが大きすぎた。T分岐してすぐ戻る経路。

 空っぽの電池ケースは四個のタッピングネジで簡単に開腹できる。ギボシ端子で配線済みの電源モジュールを外し、どこにダイオードを付けるか考える。配線を切って分岐させるのが面倒なので、これまであまり使いたくなくて余っていた自動車用の配線分岐ターミナルを使うことに。刃物のように鋭い端子で、ケーブルの外皮を左右から切り開いて、内側の芯にその刃を接触させる奴。防水ではないけど、その端子金具が外部の金属と接触するのを避けるためにカバーはされる。そうして組み上げた後、再度電気を与えると若干ましな仕上がりになった。定格電流の多寡にかかわらず、元のバッテリー以上の電圧(まあ、だいたい12v)のACアダプターなら、どれでもなんとか回るようになった。さすがに充電用のACアダプターだと電流が少な過ぎて、トリガーを引いて最大回転数まで上がってくるのに時間がかかるが、前のように全く回らないってことはなくなった。

 面白いのはモバイルバッテリーを使った動作テストである。手持ちのモバイルバッテリーに18650を使うやつがあって(ケースと電池は別売りだった)、そこにはUSB-Aの5v出力以外にDCジャックが備わっており、そこから9v, 12v, 15vをスイッチ切り替え式で取れるようになっている。最もしっかり回るのが9vの時だった。バッテリーは最大4本が入るが、並列つなぎになっているので電源電圧は3.7v、それを昇圧してUSBの5vと、9v-12v-15vの電圧を出しているわけで、おそらく昇圧のためのロスが大きく、電流として取り出せるのは3.7vに近い9vが最も多いからなのだろう。昇圧された電源は静電気に似ている気がする。モーターは与える電圧が高いほど回転数が上がり、電力つまり単位時間当たりに通過するの電子が多いほどトルクが高まると聞く。でも実際は、ドリルを空転するにもギアボックスという負荷があり、回転数も9vの方が高いように見られた。

 「なら最初から18650の電池をいれればいいじゃん」というご指摘はごもっともである。電池ケースを含め、必要な部品は全部持っている。充電のためにいちいち四本のビスを外して電池を取り出し、充電器にセットするのは面倒だし、タッピングビスのネジ孔がもたない。かと言って電池の本数分の「充電モジュール」―たいていUSBケーブルをつなぐ奴を電池の本数分実装し、そこにその個数分のUSBケーブルをつなぐのもなんか違う。上述のモバイルバッテリーは工具不要で内蔵電池を取り出せるので、ケースから外して充電器で充電してる。電ドラの元の充電器は9.6vの両端子にしか給電してなかったが、それは論外。電池は一本ずつ監視しながら充電するのがセオリーである。また、リポ電池なので、その充電モジュールはcc-cvになる。さらに電池自体が一番高い。つまり、真面目に電池式にするなら、今回の数倍のコストと労力がかかるってこと。

 もう一つ。私は出力電圧可変式のACアダプターを幾つか持っている。スイッチやボリュームで電圧が変わる。それをこの「電源モジュール」への入力にした場合、ACアダプターの出力電圧(最低でも9.6vだが)を増やすと、モーターの回転数が上がる。電ドラに渡される電圧は「電源モジュール」が決めるのだが、電流はそうではないのだろう。つまりこれらのACアダプターは、電圧のみならず電流も絞っていることになる。そして疑問がもう一つ。モーターに与える電圧って回転数を変えるけど、電流はトルクに影響を与えるんじゃなかったっけ?トリガーを引き切ったときの回転数は、明らかにACアダプターの出力電圧を上げた時の方が高くなる。でも電圧は「電源モジュール」(とトリガー)が仕切っているはずだよね。最大回転数が何故上がる?いや、よく考えると、模型用のモーターって乾電池一本の時より二本の時が回転数が高くなるのは経験上知っている。

 で、まあChat-GPTさんによると、

「…ある条件下では、供給電流の増加が間接的にモーターの回転数を上げることがあります。それは、モーターが負荷(抵抗)を動かすために必要なトルクが供給電流によって満たされ、余剰のトルクが回転数の増加に利用される場合です。(中略)定電圧電源モジュールへの入力電圧を上げると、その出力電流が増え、それがDCモーターへ供給される電流となります。この増加した電流がモーターのトルクを増加させ、その結果、モーターが負荷をより効率的に動かすことができ、結果として回転数が上がる可能性があります。…」

ってことらしい。まあ、抜粋だし、気になる人は自分で調べて。電ドラは空転させるのにもかなりの力が要るのは確か。元の設計が正しくなされているのであれば、まず空転で最大回転数になるまで入力電流を増やし、次にトルクリミッターの上限(は、ドリルだから、その一段下)までしっかり締められるようになるまで電流を足し、更にドリリングに必要なプラスアルファのトルク分だけ電流を足せば良いはず…ってACアダプターは何ボルトで何アンペア流せば負荷が少ないのかはこれから試行錯誤。過熱と短絡には要注意。

 型のわからない手持ちのダイオードがたくさんある。ダイオードには型番を書くスペースが無いので、それを入れた袋なんかに型番を書いていないと捨てるしかない、と思っていた。けど、こんな実験に適当に使えたのはアナログならではかな。もうちょっと温存しておこう。

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